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体験談や自作小説。日々の出来事をつづっています
by mamikirakira
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カテゴリ:自作小説
  • disaster.3 つばさ 折れる 【1】
    [ 2006-05-20 17:11 ]
  • disaster.2 つばさ はばたく 【10】
    [ 2006-04-17 11:51 ]
  • disaster.2 つばさ はばたく 【9】
    [ 2006-04-17 11:44 ]
  • disaster.2 つばさ はばたく 【8】
    [ 2006-04-17 11:30 ]
  • disaster.2 つばさ はばたく 【6】
    [ 2006-04-17 11:27 ]
  • disaster.2 つばさ はばたく 【7】
    [ 2006-04-17 11:26 ]
  • disaster.2 つばさ はばたく 【5】
    [ 2006-04-17 11:20 ]
  • disaster.2 つばさ はばたく【4】
    [ 2006-04-17 11:13 ]
  • disaster.2 つばさ はばたく【3】
    [ 2006-04-17 11:09 ]
  • disaster.2 つばさ はばたく【2】
    [ 2006-04-17 11:05 ]
disaster.3 つばさ 折れる 【1】
 風が唸りをあげ、煽られた髪が頬を叩く。快晴だった空にはいつしか灰色の雲が陰りを作り時折太陽を隠した。
 眼下にはオレンジ色の電車が行きかい、駅を中心に賑やかな街並みが広がっている。
JR中央線に沿いながら高円寺の病院へと翔けていたクーは額に手をかざし前方を眺める。数百メートル先にダージリンの姿が小さく見える。
なんて速さなのだろう。同時に飛び立ったのにこんなに差がついている。
 ダージ・リンは一族の中で特殊な能力を持ち、何をさせても飛びぬけて実力があった。彼はその力を驕ることもなくいつも冷静で人より一歩引いた態度で物腰柔らかだ。
しかし、表情が乏しく人を寄せ付けないような雰囲気がいつもある。
そんな彼が激しく戦闘してわが身も省みず表情険しく自分達をサポートしている。
こんなダージ・リンを見るのは初めてだった。

 吹き飛ばされた窓から降り立つと、床に這いつくばっているキメラと介抱にあたっているダークネスが目に入った。書棚が幾つか倒れ、引き裂かれたソファーから綿が漏れ出し重そうなマホガニーの机の下には大介の痛ましい遺体がある。部屋のいたるところに書類や書籍が紙くずとなって舞っていた。
「やっとお迎えだぜ。・・・オレは始末書書くので、先に失礼」
そう言ったダークネスはつま先から床に吸い込まれていくように姿を消した。
 ダージ・リンはキメラに歩み寄り、彼女の横に跪くと背中に手を当てる。
「大丈夫ですか?審判したんですね」
俯く彼女の足元には嘔吐物がちらばり、異臭を放っていた。
 キメラは肩で息をしながら手の甲で口をぬぐう。
「く、苦しいよ・・・。こんなことって・・。はぁ・・はぁ・・・。す、鈴木さん・・医療ミスとお子さんが亡くなったのを信じられなくて奥さんのお腹を開くだなんて。な、なんてことなの?!」
「さぁ、顔を上げて」
 ダージリンは汗と涙などで濡れたキメラの顔を自分の服の裾でぬぐい、肩に彼女の腕をかけた。そして、ゆっくり立ち上がる。
キメラを挟む形でクーも寄り添った。
「院長を審判した時にわかったわ。医療ミスを隠すためにいろいろ手を回していたところを鈴木さんに知られたらしいの。病院側に問い詰めても知らぬ存ぜぬで・・。ココから先は人が決めることだわ。私たちの仕事は終わった。ね、そうでしょ」
「そうですね。・・・それより急いでここを出ましょう。まずいことになる前に」
そう言って軽々とキメラを抱き上げると窓から空へ一気に駆け上がった。その後をクーは追いつつ首をかしげる。
「まずいことって??」
東の空の向こうから双子の怪力男、白髪を携えた小柄な老人、銀髪の20歳前後の青年。そして黒髪のミルク・ティの姿が見えてきた。
東京支部の面々が追いついたのだ。

 その時、空の雲間から金色の光がいくつも差しオーロラが四方の空から垂れ下がる。
一気にみんなの表情がこわばった。

『キメラ。貴方は法を破りましたね。我等が愛しみ大切に育ててきたというのに恩を仇で返すとは、私は貴方の存在に初めから異を唱えていたのです』

低くいくつにも木霊する女の声があたりに響き、金色の光に包まれた襲の色目に枯れ野色を主とした唐衣裳姿の女性が雲の合間から現れた。引き越しと衣が異様にゆっくりとゆらめいている。
 面長で色白。切れ長の目、小さな赤い唇、黒く艶のある髪は腰よりも長くまるで平安絵巻から抜け出したかのような姿だ。
「ス・・・ストラスアイラ様・・」
彼女こそがこの種の法を司り、ただ1人コマンダという職にあり一階級という階級の頂点に立つ者だった。
ダージ・リンはその姿に臆することもなく逆に反抗的とも思われる視線をなげている。
他の者達はその威厳と存在感に圧倒され身動きすることさえままならなかった。
ストラスアイラの冷たい視線がキメラたちへと向けられた。

『ダージ・リン・・・。誰の許可もなく勝手に手助けし挙句の果てはこの娘に我等が神聖な仕事をさせるとは何事だ。・・一度までならまだしも二度までも!そんなにこの娘が大切か!』

「皆を責めるのはやめて下さい!私が悪いんです!私が独断で勝手に仕事をしたんです。・・・・だから・・・・だから・・処罰は私だけに」
キメラは顔を上げ身を乗り出し懇願する。にわかにストラスアイラの口元に笑みがこぼれた。

『くっ!ククククククっ!!処罰は私だけにだと?!自分が何をしでかしたかわかっていないようだな。この愚か者どもに刑を言い渡す!今後このようなことが起きぬよう厳しい刑を!』

高らかに響く彼女の声に皆固唾を飲む。厳しい法の下で存続を続けられるこの種にとって彼女の法は絶対だった。
ストラスアイラは視線をダージ・リンに向けると、目を細め穏やかな口調で言った。

『ダージ・リン。勝手に持ち場を抜け出し、トラブル解決のため皆を扇動した罪は浅はかで軽率でありジャッジマスターにあるまじきもの!我が種の法をゆるがす危険な行為に他ならない。生涯島から出ることを禁ず』

そして視線はキメラへと移る。その瞳には冷酷な光が宿っていた。彼女はあこめ扇を広げ口元に持っていく。

『キメラ。島を出ただけでは飽き足らず、大人しく言われた仕事をしていたかと思いきや人を裁くとは笑止千万!人の分際で人を裁くとはとんでもないこと。・・・』

「今・・・。なん・・て?!」
キメラは自分の耳を疑った。ストラスアイラの目に笑みが浮かんでいた。

『お前は人間なのだよ。皆黙って自分達と同じように扱っていたようだが』

人間・・・一瞬周りの音も景色も消え暗闇に投げ込まれたような感覚にキメラは陥った。
 彼女の肩に誰かが触れた。頭を振るとクーの悲しげな顔がそこにある。
「キメラ・・・」

『さぁ、決めるのです。我等と過ごした記憶を失い人として生きるか。命を絶つか』

 ストラスアイラ以外のみなの表情が強張った。
「馬鹿な!!私が生涯謹慎でキメラが死だと?!」
始めに食ってかかったのはダージ・リンだった。声を荒げ顔は怒りで高潮している。
その横からクーは口を挟んだ。彼女の新緑の瞳には涙が溢れいまにも零れ落ちそうになっている。
「そんなのおかしいです!緊急事態だったし、間に合わなかった私たちにも責任があります。・・・・それに小さい頃から一緒に見てきて・・可愛らしい子供から妹みたいになって今では親友でもある彼女に・・・今更死んでくれだなんて。皆温かく見守ってきたんですよ!」
 それを皮切りにストラスアイラと東京支部の人たちの間で口論が巻き起こっていた。

・・・嘘だ・・人間だなんて・・・

だってちゃんと仕事できるじゃない・・・・

それに・・姿だって消せるし・・・

・・ねぇ・・誰か・・違うと言って・・・

涙でぼやけた視界に揉めているダージ・リンたちの姿が映る。
その時首元にあった『天使のチョーカー』が指先に当たった。胸が高鳴り足元からざらついた寒気が這い上がる。

・・・・私は・・飛べない・・・?!

島を出してもらえなかった理由がまるで失っていた1ピースをみつけたジグソーパズルが完成するかのように解かれる気がした。
不思議な力を持つダージ・リンの手により彼らと同じように生かされていたとしたら・・・
彼の力を持ってしても空を飛ぶのだけは無理だったとしたら・・・
キメラの脳裏に島での出来事とこっちへ来てからの人との生活がオーバーラップする。
「いやあぁああぁぁぁああ!」
悲鳴をあげると彼女は急降下して眼下の街並みに消えていった。
「キメラ!」
彼らが気づいた時にはその姿はもうなく、空を覆った灰色の雲から冷たい雨が落ち始めていた。

※つづく※
by mamikirakira | 2006-05-20 17:11 | 自作小説
disaster.2 つばさ はばたく 【10】
2メートルほどの大きな影を纏った男は、ダークネスの攻撃をすんでのところでのらりくらりと避け少しずつドア口へ近づく。
放出して衰えた力を取り戻すため、病室に残された乳児や妊婦を狙っているのだ。
男の瞳には生気はなくうつろにその瞳はダークネスの姿を写していた。
力なく腕はぶらさがっている状態で足取りは重くずるずると引きずるように歩いている。

「くそっ!むちゃくちゃだるそうなのになんで当たんねーんだ!!」

鎌をくるりと回し持ち直すと、男との間合いをつめ切り込む。
空気が唸りをあげ黒い鎌が弧を描いた。
ダークネスの一撃を男は身体を揺らし、まるでその場から突然消えたかのように避ける。鎌が切り込むのは男の残像だった。

「もう扉は目の前に!!この部屋から出したらダメ!」

キメラは思わず声をあげた。

「わかってる!」

額に汗をにじませながらダークネスは、目を凝らした。
男はドアの前に立ちはだかるダークネスにゆっくりと腕を上げ手のひらをかざす。
黒い影がぐらりと揺れ一瞬動物の形を成した。
キメラは息を呑み叫ぶ。

「猫よ!虐待されて死んだ猫が化けて鈴木さんを利用して人を呪っているんだわ」

最後の砦ダークネスに、かざした手を振り下ろす。
それと同時にダークネスの鎌が唸りを上げて振り下ろされる。

「うああああああああ!!」

『ぎゃああああああああおおおおう!』

ダークネスの声と人とも獣ともとれる声が重なり合った。
その時、柔らかな男の声が部屋に響いた。

『・・・とうさん・・・!』

二重にも三重にも空気を震わすその声は透き通り、部屋の中にいくつもこだまする。
闇に囚われた男の手がダークネスの顔の前で動きを止めた。
それと同時にダークネスの鎌が深々と男の右肩からお腹の辺りまで刺さる。

『うぎゃおうううう!!』

苦痛に呻きながら男は奇声を上げると身をよじり後ろへと仰け反った。

「このぉおぉおお!!」

ダークネスは捕まえた獲物を逃すまいと力任せに鎌を引いた。暗闇と男が分離し、うごめき抵抗する暗闇がずるりと鎌に捕えられたまま足元へ引き寄せられた。
そして鎌を一振りし、暗闇を空中に投げ出すと二振り目で止めを刺した。
暗闇は敢え無く離散する。

「泰助くん・・」

キメラの視界の先には透けてうっすらと輝く泰助の姿と部屋の中をかさこそとゴキブリのように這い回る既に生前の姿を保っていない奇妙な肉の塊のような大介の父の姿があった。

『ひぃぃぃぃ・・・力を貸してくれよぅ・・。はぁぁあぁあ・・。おれの子供はどぉこおだぁ?』

まるで消え入りそうな声でその肉の塊は何事か呟き続けている。
泰助が父に近寄ろうとするが素早く部屋の隅へ逃げ込んでしまう。

『とうさん。もういいよ・・・。母さんも待ちに待った妹も。そして・・僕も父さんも死んでしまったんだ。・・・何をやっても、もう過ぎてしまったことは変えられない』

『うそだぁあぁああぁぁぁ・・・。お腹の大きな母さんがいるよ・・。あそこにも、ほらこっちにも・・私に手招きして微笑んでるではないかぁあぁああ。もう、いいいいいい、い、医者には触らせないぞぅうぅう・・。俺の手でぇえぇえええ。子供を取り上げててて・・・・。あふ・・あははは・・・。生きてる。温かい・・でも、すぐ。つめつめ冷たく・・なるううぅうぅううううう。・・・母さんおれの子はどこだぁあぁ』

泰助の瞳から大粒の涙がいくつも頬を流れた。
もう、自分の声も届かないのか。部屋の隅を動き回る哀れな父をそして終わることのない呟きにガックリと膝を落とし嗚咽をあげて泣いた。
窓から吹き込む風に気付き、肉の塊は窓の外へと飛び出した。が、ダークネスの黒い鎌がそれを逃がさなかった。
鎌の先が肉の塊を貫き、鋭い金属音を立てながら床を引き擦りキズを残し彼の元へとつれてきた。
肉の塊はもがき奇声を上げながらすきあらば逃げ出そうと暴れている。

「もう、逃がさないぜ!!・・・・キメラ!ココにはお前しかいねえ!こいつの力は半端じゃない!この機会を逃したらまた逃げられるぜ!他の連中を待ってる時間はない。お前がコイツに審判を下すんだ!!」

床と刃物が擦れる音と、肉の塊が暴れる生々しい音がした。ダークネスは腕を震わせ多少それに動きを取られながらなんとか押さえつけていた。

「そ、そんな・・・・。だって・・植物以外仕事したらいけないって」

青ざめこわばった表情のキメラの膝は小刻みに震えている。
目をそむけ両手を胸で合わせたままキメラは叫んだ。

「嫌だ!できないよ!!絶対無理だよ!」

「馬鹿やろう!大介の涙を見てなんとも思わないのか!・・ダージ・リン様も言ってただろ。もしもの時はお前がやるんだって!出来る!お前なら!!!もう間がもたねえ。・・・もたもたすんじゃねぇよ」

ダークネスに啖呵を切られ、ゆっくり目を開くと自分を見つめる大介の姿があった。
言わなくても分かっている・・・・。今、審判を出来るのはわたししかいない。
震えが止まらないままキメラはふらふらとダークネスに歩み寄り、足元に膝まづくと肉の塊に手の平をかざした。

怖い・・・・・。
怖いよ・・・・・。ダージ・リン様!早く来て!!!

自分の心の叫びとは裏腹に、彼女の口から言霊が唱えられた。

「我が母バース様の命により魂の解放をする者である。魂の審判を受け・・・・・・」


その頃、中野駅の周辺まで飛ばされたダージ・リンとクーは男から放たれた魂と一戦を交えていた。
ファーストフード店やオフィスビルに囲まれた交差点の真ん中で、二人は何十体とある魂に取り囲まれていた。彼らは二人に捕りつこうと次から次へと襲ってくる。

「ダージ・リン様!切りがないですぅ。・・それにクー、ちょっぴり疲れちゃったな」

眉をひそめ腰をくねらせながら黒い影にアッパーカットをお見舞いする。
黒い影は宙を舞い、空に浮かぶ多数の仲間を巻き添えに倒しながらお空の向こうへ消えていく。
黒い影に背負い投げをして、さらに襲い掛かる影を扇子で払いダージリンはクーを見た。交差点には多数の歩行者そしてそれに紛れてまるで天使のように愛らしい彼女が黒い影に囲まれ立っている。

「そうですね。空から強行突破でキメラのいるところへつきすすみますか・・ってこの数半端じゃないです。そんなことしたら間違いなく捕まりますよ。」

うんざりした様子で言う。
交差点の信号が赤から青になり車が彼らの脇を走り抜けた。
黒い影は車の存在を無視するかのように物質を通り抜け彼らに襲い掛かる。
車の合間を動き時には車上やその下で戦い続ける。
この数からして二人の体力に限界がくるのは目に見えていた。
魂を刈るものがいない今、追い払うことしか出来ないからだ。
二人は背中合わせに立ち肩で息をしながら四方を囲む闇を見据える。
その時、後方から黒い鎌が唸りを上げて現れ、前方の闇をつぎつぎと払いのけた。
振り返るとアスファルトから黒い鎌を持った男女が数人現れ、東の空を見上げると東京支部の面々が応援に駆けつけていた。その後方からさらに仲間がかけつける。
2メートル50はありそうな巨体の男二人が声をそろえて叫んだ。

「ココはおれらにまかせろ!キメラのところへ急げっ。すぐ片付けて追いつくからな!」

頷いたクーとダージ・リンは彼らを背にキメラたちのところへと翔けた。

※つづく※

by mamikirakira | 2006-04-17 11:51 | 自作小説
disaster.2 つばさ はばたく 【9】
 武骨な骨が連なりあったような枝を重ねながら無言で並ぶ雑木林と、硬く膨らんだ芽を抱える街路樹に囲まれた住宅街の一角から、眩く赤色灯を携えた救急車が慌しく駆け抜けた。
 赤褐色と栗色のモノトーンで構成された煉瓦歩道に沿い、救急車の出てきた曲がり角の先には数台のパトカー。そして、野次馬と報道陣でごったがえしていた。
人ごみを掻き分けて、ダージリン、キメラ、クー、ダークネス。青ざめた表情の泰助が姿を現す。
既に彼らの頭上には太陽が昇り、人々は通勤ラッシュを迎えていた。

「これで5人目だ。子供の魂はまだあったから助かるだろうが、お母さんは魂を持っていかれていたな・・」

ダークネスはため息混じりにつぶやく。一陣の風が、短い髪を揺らし頬を冷気でたたいた。身をすくめた彼はダージ・リンに視線を投げた。
 訝しげな面持ちでダージ・リンは口を開いた。口から白い蒸気が一気に噴出す。

「千駄木から・・本駒込、水道橋、高田馬場、中野・・。そしてここ高円寺。どこへ向かっているんだ彼は・・。波長が合う妊婦を犠牲にしながら西へ向かう理由が何かあるはずだ」

 なかなか追いつかない焦る気持ちを抑えながら、彼は歯噛みして頭を振った。
ダージ・リンの視線の先には、コンクリートむき出しの打ちっぱなしでできた真新しい四角いビルが建っている。救急車で運ばれた女性の住んでいたマンションだ。

「・・・あの手口は普通じゃないわよ。狂気にかられた人間の行く先なんてあるのかしら?」

 肩をすくめ、クーは眉をひそめる。泰助を一瞥すると苛立ちを隠せない様子でつま先を鳴らした。
腕組しながらダークネスは空を仰いだ。

「夜が明けちまった。・・仕事がやりにくくなるぜ」

「わかってる」

短く言葉を返し、ダージ・リンは鈴木の気配を追う。
今までと変わらず微弱な気配・・。彼を核として取り巻く霊体が彼の存在を捕らえにくくしていた。取り巻く霊体の気配を探るには、あまりに雑多なその他の気配に類似しているためそれを手がかりに追うことは不可能に近かった。

「ちょっと待って・・。確かここは高円寺だよな」

今まで言葉を交わすことなく着いて来ていた泰助が口を開いた。

「心当たりがあるの?」

クーは変わらず挑発的な口調で問う。
泰助の姿を見てキメラたちの表情が一変した。

「大丈夫?!」

今にも前に倒れそうなほど身体を屈め、額に大粒の汗をかき顔面は蒼白だった。
彼の利き手の右手は自分の胸倉を強く掴んでいる。
苦しげに苦悶の表情を浮かべる大介の腕を取り、自分の肩に回したのはキメラだった。
息をするのも絶え絶えで、今にも気を失いそうな様子だ。

「大丈夫だ・・。オレは平気だ・・・・・。多分。。あそこだ。・・行ってくれ!」

「どこ・・!どこに行けばいいの?!」

キメラは胸に当てられている彼の手に手を重ね気を失わないように声をかけ続けた。
彼らは「立花産婦人科」とプラスチック製の看板の掲げられた3階建てのビルの前に立っていた。
コンクリートに灰色のタイルで外壁をあしらった古い建物だ。

「オレたちが生まれた場所だ・・・。高円寺は母さんの実家があるところなんだ・・」

動悸と胸の痛みと息苦しさに耐えながら泰助はかすれた声で言った。
15近くの商店街が駅前に集中する高円寺。新しいものと古いものがひしめき合い、独特な街並みを作っている。
 マンションのあった桃園川緑道から北西に上がって純情商店街を越え、高円寺ストリート沿いに北に外れると中町通りに出る。その通りに面して病院はあった。
まがまがしい空気が病院を取り巻き、建物の隙間からぽっかり穴が開いたかのような漆黒の霧が漏れ出していた。
女とも男ともつかない悲鳴が院内から響き、間を置いて複数の人間が病院から飛び出してくる。

「まずい!産婦人科だ!!急ごうぜ!」

ダークネスは院内に飛び込み、ロビーから受付・・そして病棟へ続く廊下を迷うことなく突き進んだ。その後にキメラたちが続く。
灰褐色のビニール床と白い天井が続く廊下と自分の位置を迷わせる同じ造りの病室をいくつも通り抜ける。
より暗いまがまがしい空気に向けて進めばいいのだ。
 彼らと逆に院内にいた看護士や外来の客達がロビーへと向かい揉み合いながらかけて行った。
院内の乳児が泣き叫び、助けを求める母親の悲痛な声が辺りにこだましている。
すでに院内はパニックに近い状態になっており、激しく駈ける足音と悲鳴で異様な空気が流れていた。
彼らが求める暗闇は院長室へと繋がっていた。
古い院内とは対照的に両開きの立派な木製のドアに、金のプレートが掲げられ黒文字で「院長室」と印刷されてある。
躊躇することなくダークネスは扉を大きく開き、部屋へ踏み込んだ。
両脇を書棚に囲まれ、中央に屋久杉で出来たいびつな形の応接テーブルが置かれており、牛革の黒いソファーが滑らかで鈍い光を放っている。
マフォガニー製の院長机は綺麗に磨かれ、重そうなガラス製の灰皿が置かれてあった。
リクライニング自在な高級牛革製の院長椅子の上に、白髪まじりの初老の男が、まるで水中に漂う死した魚のような姿で、時折身体を震わせながら宙に浮き、その命を奪われようとしていた。
白衣を着たその姿と風格から院長なのは間違いなさそうだ。
 薄らぐらい底の見えない穴のような闇の中から、やつれ筋張った人の手が伸び彼の首を絞めている。
大きく開け放たれた窓から風が吹き込み、壊れ落ちかけたブラインドが力なく風の思うがままに踊らされ窓枠や壁にぶつかっては耳障りな音を出していた。

「このヤローー!!」

音もなく床から鎌を呼び寄せると両手に構え、ダークネスは暗闇へ向けて鎌を振り下ろした。鎌は黒光りしながら美しい曲線を描き暗闇の左側をかすめた。

『ぐはあああああっ!!』暗闇は形をかえてもだえるかのように波打つ。

院長に伸びていた腕が消え、支えを失った体が重力に任せて机と椅子にぶつかりながら床に転がった。すかさず、ダークネスの鎌が院長の意外としっかりした身体に切り込んだ。
鎌を引くと、院長の魂と思われる姿のものがついてきた。
引き寄せるダークネスの傍らにクーは走りより院長の魂に手をかざす。

「我が母バース様の命により魂の解放をする者である。魂の審判を受け己が出した末路に命運をゆだねるがよい。さあ!見せよそのいきざまを」

高く澄んだ声が唱え終わると共に掴んだ魂が白い光を放ちはじめた。
クーは手をかざしたまま動かない。
暗闇は獲物を奪い返そうとその魔の手を彼らにのばした。
その暗闇を軽快な音と共に払ったのはダージ・リンだった。

「お前の相手は私です。・・・・魂を狩る物が一人しかいないとは。痛いところですが足止めくらいはできるでしょう」

彼の手には扇子が握られている。古いものでくたびれているように見える。
乾いた音を立て扇子を開くとまるで能を舞うかのように、幾度となく伸びる触手を払いのけた。

「も・・う・・!!・・やめてくれ!!父さん!」

キメラに支えられながら泰助は声の出る限り叫んだ。

『ぐほおおおおおうううう!!はううううおおお!』

暗闇はよじれ端々から捕らえた魂の一部が飛び出した、いずれも女や子供の手や足、顔などで苦しげに空を掻きまた暗闇へと引き込まれていく。

「まだ、彼に息子を認識する意識があるのか・・?!その意識が迷いを産み形を保つことが難しくなっているのか・・??」

ダージリンはキメラとクーの前に立ちはだかり扇子を振った。

「ならば切り札は彼・・!!」

臨戦態勢を整えた時、院長の魂が輝きを増しそれと同時に本棚の影から1人の少年が現れた。
白いシャツに黒い短パン。私立の制服姿で坊ちゃん刈り。どう見ても小学生だ。

「呼んだか。クー・・・」

少年の顔を見て彼女は笑みを浮かべた。

「ええ。・・・人としての人生を歩みし者よ。自ら選んだ善と悪を天秤にかけ天啓を申し渡す。重ねた罪の数を悔い改めるための旅に出るがよい!そして苦役と後悔を味わうがうがいい!」

手の中に輝いていた魂が揺らいだように見えた。

「クルエルティ・・お願い」

少年は顔色一つ変えずつぶらな大きな瞳に冷たい光を携えながら、院長の魂を見つめるとそれを鷲掴みにした。
輝く魂は琥珀色に色褪せ突然石のように重くなる。
それを少年は手にすると、書棚の影へ引きずり込まれるように消えていった。

「よしっ・・」

ダージ・リンが呟いた時、激しい突風に襲われ身体に何かがぶつかり押し出され外へと吹き飛んだ。風の呻きと共に部屋が僅かに揺れ、渦巻く風と暴れる家具や書類が壁や床お互いぶつかりながら翻弄される。
風と暗闇の一部は部屋の中で膨張し、彼らを遠くへ追いやったのだ。
それは、クーの仕事振りに目を奪われた一瞬のことであった。
 院長室は机も椅子もソファーもひっくり返り、書棚も半数が倒れ書籍が床にちらばり書類が室内を舞っている。
転倒したソファーの下から手・・腕・・肩・・体が・・。キメラは重いソファーによって衝撃を抑えられ飛ばされることなく無傷に近い状態だった。

「あ・・つっ!!」

右肩を打ち付けたみたいで軽い痛みが走る。ソファーの下から這い出て室内の様子を見回した。
彼女の目に片足を杖で貫かれているダークネスが入った。傷口に手を当てて横たわり苦しげに呻いている。

「ダークネス!!」

駆け寄ると、彼はゆっくり身体を起こした。ダークネスは自ら杖を引き抜いた。
歯止めをなくした血液がが勢いよく噴出しあっという間に足元に血溜まりを作った。
彼は身につけていたベルトを引き抜き太ももに巻きつける。

「大丈夫だ・・。これくらい・・」

キメラは何かを思い出したかのように頭を振る。

「泰助さんは・・・・?!」

ダークネスはゆっくり首を横に振った。マホガニーの机の下に大介の遺体と思われる体があった。うつ伏せに倒れ床に大量の血の池をつくっている。
キメラの瞳から涙が零れ落ちた。体が振るえ、絶望とわが身の無力さに一瞬にして鋭気を失いかけ意識が飛びそうになった。

『はあぁああぁあああ・・・・・。』

彼女は顔を上げると数メートル先に、やせ細ったスーツ姿の中年男性が暗闇を幾つか纏ってゆらりと立ちすくんでいた。
異様なうめき声と共に、ダークネスの息詰まった声で現実に引き戻される。

「オレとキメラ以外皆、遠くに吹き飛ばされたみたいだな。・・・しかも、奪った魂の使徒がオレら以外を追っている。やつも今は手薄だ。二人でやるっきゃねー!!」

片足を引きずりながらダークネスは立ち上がった。
うなづき、涙で濡れた顔で大介を見た。
ダークネスの手が伸び優しくキメラの頭をなでる。

「気にすんな。・・・心臓悪くしていてもう、長くなかったんだ。・・。わかってただろ?」

そう・・・私たちが見えてた時点で彼の命は燃えつきかけていたのだ。
人の死に際はいろいろだが・・・今は悲しみにくれている暇はない・・・。彼の願い・・・鈴木さんの魂を解放することが何より先決なのだから・・。

「いくぜ!」

鎌首を上げてダークネスは男へと向かった。

※つづく※

by mamikirakira | 2006-04-17 11:44 | 自作小説
disaster.2 つばさ はばたく 【8】
キメラ達は身動きもせず男を正視した。
白いニットに煤けた紺色のジージャンそしてあちこちほころび穴の開いたLEEのジーンズくたびれた靴下。
少し角ばった面長の面持ちにスラリと長いごつい鼻。太い眉毛にくせ毛の茶色いセミロングの髪。きらきらと光る大きめの瞳にはキメラたちの姿がしっかりと映っていた。
 一歩歩み出て彼を確かめたのはクーだった。

「ちょっと?!この人私たちの事が見えてるの?!」

男の目の前でひらひらと手を振ってみせる。
その手を払いのけ男は忌々しそうにキメラたちを見た。

「見えてるよ!変な格好をした赤毛の女と青白い髪の男と。くるくるピンクの髪のあんた。・・・・ま、ゆいいつまともそうなお兄さん」

確かに見えている・・・・。キメラ達は顔を見合わせダージリンへと視線を向けた。
ダージリンはまだ追跡中だ。

「・・・・・・見た感じ警察ではなさそうだし。どうやって入ったか知らねーけど。野次馬は出てけよ!お前らが面白がるようなもんはここには何もない!」

息をまいて男はクーの襟首を掴み戸口へ引き倒そうとする。ダークネスの筋肉質でごつい腕が伸びクーの身体を受け止める。
ダークネスと男は無言のまま睨みあった。
物音がして文机の前に立ちダージリンは呟いた。

「これで・・。鈴木 隆さんの後を追えます」

ゆらりとただずむその姿に、目を奪われつつ男の表情に怒りとも驚きともとれる色が浮かんだ。

「!!オヤジの後を追うって・・・。どういうことだよ!!オヤジは警官に撃たれて死んだんだ。おかしな事いうな!!新たな霊感商法か、お前ら!」

そう思われてもおかしくない状況だ。
人間に口で説明して分かるほど簡単なことではない。
 ダージ・リンはようやく男の存在に気付き、彼に歩み寄った。

「・・・君は・・。息子の泰助君だね。妹の清香ちゃんは?」

「親戚の家だよ・・」

問われるがまま応えてしまう。
その様子を見て、クーは小声でキメラに不満を言った。

「おかしいよ。私たちの姿が見えるなんて・・・。普通じゃないよ」

「うん。・・・・でも・・」

頷きながらも、キメラは何か言いかけた。

「信じてもらえないと思うけど。私たちは仕事で君の父親の魂を追っているんだ」

なんのためらいもなくダージ・リンは正直に答える。その答えに納得がいかない様子で顔を見合わせたのは、キメラとクー、ダークネスだった。
 泰助は呆れたように口を半開きにして呆然としている。
慌ててクーは、少し苦笑いを浮かべながらその場を取り繕おうとした。

「ちょ、ちょっと待って。とりあえず私たちここからすぐ立ち去るから。泥棒でもないし、何かしたわけでもないし・・・あはは、怪しいのは十分承知の上で・・。なんなら調べてもらっても構わないわ。」

そう言うクーを彼は冷たい視線で見据えた。どう見ても誤魔化しは聞かなそうだ。
泰助の視線はゆっくりとダージ・リンに移った。

「・・・オヤジを追うって・・。やっぱり成仏できてないのかよ」

(この状況で信じるのー?!)

言葉にしなくてもクーの表情から言いたいことは読み取れる。
ダージ・リン以外誰もが困惑していた。
 和室に立ちすくむ5人。柱時計の時を刻む音だけがやけに大きく耳につく。
短い沈黙の後、泰助が口を開いた。

「俺も連れて行ってくれ!オヤジの最期を見届けたい」

「何を馬鹿なこと言ってるんだよ。おれ達とお前とは生きてる次元から違うんだぜ」

めずらしくダークネスは呆れた口調で言い、軽くため息をつく。

クーも後について尖った調子で言った。

「ここは、専門家の私たちに任せて置いた方がいいと思うわ。・・・だいたい足手まといよ」

「・・・・。足手まといって小声で言っても聞こえてるんですけど。お姉さん」

面白くない様子で大介は彼女を一瞥した。だが、すぐ視線をダージ・リンへ向けるとせきを切ったように話し始めた。

「頼む。俺も連れて行ってくれ!オヤジが生前何をしたか知ってるんだろ。今まで散々警察やマスコミに叩かれてきた。俺だって出来ることなら償いをしたい!それに・・追われているってことは死んでからも迷惑かけてるんだろ。親父の魂をすくうのを手伝わせてくれ!俺もオヤジの為に何かしてやりたいんだ」

肩をすくめて眉をひそめながらクーはふわりと宙に浮いて見せた。

「・・・気持ちは分かるけど・・。私たちは人間と違うって言ったでしょ。生きている次元も体の構造も生活習慣も全く異なってるの。姿はとても似ているけどね」

「おれもこいつらとは生きている次元は違うが、仕事上場を共有できるようになってる。この仕事を糧に生きているからな」

ダークネスも同意して空を掴むと畳から大きな黒い鎌が生えてくるかのように現れると音もなく彼の手へ納まった。
目の前で起こる日常とかけ離れた現象に泰助は愕然とする。
こんなことはありえるのだろうか?
まるで小説やコミックの世界のような出来事を今目の当たりにしている。目の当たりにしているからと言って現実味を帯びるどころか、ますます現実が薄れていくような感覚にも囚われた。

「・・・・・・・。連れて行ってあげよう」

今まで口を挟まなかったキメラが今までにない強く高い声をあげた。

「何言ってるの?キメラ!」

すかさずクーがかみつくように声を荒げた。彼女にとってこれ以上の面倒は避けたかった。キメラは物怖じせず、前に歩み出ると

「だって、この人・・・・」

「わかった」

言いかけた彼女の言葉を遮って、ダージ・リンが承諾した。
クーとダークネスは納得いかない様子で顔を合わせる。しかし、ダージ・リンの言うことは絶対だ。

「・・・。連れて行きましょう。大介さん。私の力では私の半径1メートル以内に貴方はいなければなりません。そして、空を翔るときは私の手を絶対離してはいけません」

そう言って泰助の骨ばった手を握った。彼の手は柔らかくほんのり温かい。
彼らは幻でも夢でもなく、今ここに生きてそこに間違いなくいるのだ。
 急にキメラたちの存在を泰助はようやく実感した。
キメラ達は慌しく、部屋を出て縁側へ・・そして大介の家を後にしようとしていた。
突然手首をつかまれ頭を振ると、そこに憮然としたクーの姿があった。

「わかっているでしょうね!何かあったらあなたが責任取るのよ!」

一瞬キメラの瞳が揺れ、葡萄(えび)色の瞳に力と悲しみに似た色が帯びる。

「わかっているわ。でも、こうすることが彼にとって一番いいことだから・・・」

「どういうこと・・・・?」

理解できない様子だったクーは少し考え込むと、何やら思い当たったのか大きく目を見開いた。そして、彼女を見返す。

「まさか!」

キメラはゆっくり頷いた。

*つづく*
by mamikirakira | 2006-04-17 11:30 | 自作小説
disaster.2 つばさ はばたく 【6】
目前に広がる青々とした草原が50メートルほど続きその先にはブナ林が永遠と続いている。ぶなの木も緑をたっぷり携え堂々と立ち並んでいた。ブナ林の間から何軒かあるログハウスが見え隠れする。
キメラたちの住居だ。

 外の冬を迎えた木枯らしが吹き荒れる光景と裏腹に、鳥がさえずり風は温かく遠くの方で小川のせせらぎも聞こえてくる。自然が奏でる音以外に何も聞こえなかった。
草を踏みしだきながら、キメラは目を伏せる。
 ここに帰ると思い出す。
甘い香りを運ぶ風・・・・・・。木々の心地よいざわめき・・・・。ゆっくり流れる時間・・・。
そう。あの島を・・・。
どうしてだろう?あんなに出たかった島。空を翔け自由になりたかった日々がすごく懐かしい。

そして・・・。

風に揺れる軽やかで柔らかい瓶覗色の髪。
穏やかで憂いを帯びた宝石のような光を秘めた菫色の瞳。
陶磁器のような象牙色の肌に女性のような美しい面持ち。
なのにしっかり受け止める身体は紛れもない男性のもの・・・。

ダージ・リン!

あの島に私を閉じ込めていた人。
初めは外へ出さないことに疑念を抱いていたけど・・。
今では・・
いろんな気持ちが織り交ざり。
そして無性に会いたくなる。
あの人の真意を知りたい・・・・・・。この気持ちが何なのか確かめたい・・・。
三ヶ月というまだ短い時間なのにあの島にいた頃が遠い記憶のように感じた。

「ダージ・リン!」

目の前を歩くクーは歓声をあげた。

キメラは心臓が痛くなるほど胸が高鳴る。
・・まさか・・・・!!!
顔を上げると紛れもなく淡い黄土色に黒い縁取りが入った民族衣装を纏ったダージ・リンが立っていた。
すぐさま駆け寄り抱きつきたい衝動に駆られた。
だが、既にダージ・リンにクーが抱きつき彼の首に腕を絡めうっとりと見つめている。

「そーいや。クーはダージ・リン様の大ファンだったな」

着替えを終えたダークネスが彼の後ろから現れた。青い薄汚れた色のGパンにこげ茶色のショートブーツを履いている。

「やっと私を迎えにきてくれたのね。そろそろ人間の男には飽きていたところだったの」

甘く纏わりつくような声色でクーは言い、ダージリンに顔を近づけた。
ダージリンは物怖じもせずクーを優しく身体から離し、無表情のまま視線をダークネスへと向ける。

「私が助っ人に来ました。詳しくは聞いてます。しばらく他の皆さんは後始末にじかんがかかるようですので私とダークネス。クーとキメラで彼を追うことになるでしょう」

淡々と話を進める。
・・・私もあんなふうに拒絶されるのだろうか・・・・。
漠然とそんなことを考える。
どうかしてる。大変な時なのに心が浮かれてるなんて。これから行動を共にするダージ・リンとのことを考えるだなんて・・・・。

「キメラ!聞いてるの?」

不意に名前を呼ばれてクーを見た。
憮然とした表情で腕組みして自分の前で仁王立ちになっている。
クーはキメラの周りを歩きながら嘗め回すように見て言った。

「あんたが一番足手まといなんだからね!ぼ~っと私のダージ・リン様を見つめないでくれる?」

「・・・う、うん・・」

頬を赤らめてダージ・リンを垣間見る。
少し彼が微笑んでいるかのように見えた。

「さて、彼を追いましょう!」

きびすを返して振り向いたダージ・リンの表情はいつもと変わらなかった。
揺れる髪。誰も寄せ付けないような視線。
彼の後にキメラたちも続いた。

*つづく*
by mamikirakira | 2006-04-17 11:27 | 自作小説
disaster.2 つばさ はばたく 【7】
 六本木の夜景を背にキメラとクー、ダージ・リンとダークネスは北風が吹き荒れる上空へと木の葉のように風に翻弄されながら舞い上がる。
高度があがるにつれ気温も下がり、冷気が四人に纏わりつく。しかし、彼女達の飛ぶことによる熱量で、熱く火照った身体にかえってその冷たさが心地よく感じた。
 しばらく飛ぶと古代建築に範を求め、奈良の正倉院などに見られる校倉造をモチーフにしたコンクリート造りの国立劇場と幕末まで屋敷地で明治時代に陸軍練兵場だった平成15年に開園100年を迎えた日比谷公園の間を抜ける。
施設の充実した日比谷公園の向こう側には、緑を多く湛えた吹上御苑・皇居東御苑・北の丸公園が、煌めく街の灯かりにぽっかり大きな黒い穴を作り出していた。
 次にエアー・サポーテッド・ドームである東京ドームを右手に過ぎると左手に加賀藩屋敷旧建築物赤門や安田講堂携える東京大学が見えてきた。
東大農学部の上を通りグランドを抜け不忍通りに出る。
 古きよき日本の風景が残るこの地域は寺や神社が多く混在し、通りから一本外れると古い木造の民家やお豆腐屋さん、お米屋さんなどの個人商店が懐かしさをさそう風景に出会えるところだ。

 不忍通りを団子坂上方面へ北上し、すぐ左に外れて藪下通りに。そして汐見坂ふきんに差し掛かったところでキメラたちは羽を下ろした。
都会の喧騒をよそに静まり返る住宅街。
 少ない灯かりのなか暗闇がすぐそこにあり心なしか薄ら寒い感を覚える。

「この汐見坂を上って50メートルほど先に鈴木 隆の住まいがあります。そこで彼の手がかりをつかみましょう」

落ち着いた凛とした声が辺りに響いた。
ダージ・リンの意見に残りの三人はそれぞれ頷き、沈黙のまま彼の後に続いた。
汐見坂をやや早足で上る四人。吐く息は白く静寂の中犬の遠吠えと時折耳を掠める都会の喧騒、そして彼らの布ずれの音がやけに耳についた。

 坂を上りきり小道に逸れてしばらく歩くと、大きくもなく小さくもない日本家屋の前に立ち止まった。
奇棟屋根の深い軒下には裏路地のような丹波石によるアプローチがあり、家屋の外壁には山吹色のモルタル下地に杉板張りの腰壁が施されていた。格子の玄関戸の脇に木製の看板が掲げられており『汐見すずき食堂』と味のある筆文字で書かれてあった。
 垣根と竹で出来た低い塀に囲まれたこの家屋に明かりはなく、夜の帳に身を寄せるかのようそこに在る。
 ダージ・リンはにわかに懐から古ぼけた小枝を取り出すと格子戸の鍵穴にそれを差し込んだ。至極自然にその小枝を一回りさせると鍵が開く乾いた金具の音がした。

「何度使っても便利だよね。その枝」

不思議そうにキメラは呟く。
 格子戸を引いたダージ・リンの後に続きながらクーは軽く片目を閉じた。

「鍵の木の小枝がなければ仕事ができないじゃない。今は鍵も多様化しているけどこの小枝一本あればぜんぜん問題ないから」

ダージ・リンはその会話を聞きながら少し笑みを浮かべ、小枝を懐へもどす。そして静かに格子戸を閉めた鍵を掛けなおした。
確かにこの小枝は鍵の形を瞬時に読み取り、鍵穴の中で変化する便利なものだ。
 玄関にはいるとすぐ食堂になっており、漆喰塗りの壁に小さな小窓が並び各てーテーブルごとに柚子壁が施されて半個室になっていた。柚壁にも縦格子の入った小窓が二つ施されている。
 土間風の冬暖かく夏涼しい三和土の優しい感触を足で感じながら、カウンターの跳ね上げ扉を上げキッチンを抜け母屋へと続く廊下の扉を開いた。
母屋へ続く廊下の向こうには中庭が設けてあり、店の軒先の御簾垣を区切りに飛び石伝いにこの中庭に続いていた。鎖砂利敷きに臼型手水鉢を据えた蹲周り、護岸の石積みや延べ石植栽の緑に和の趣をうかがえる和庭になっていた。
 店も母屋も庭もよく手入れが行き届いている。
和室を抜け縁側を歩き突き当たりに米まつで出来た引き戸が現れた。

「鈴木さんの書斎です。こちらで彼の行き先を探りましょう」

乾いた軽い音を立てて引き戸は開き、四人はなんなく室内に入る。
4畳半のこじんまりとした和室。壁には古びた柱時計とどこにでもある書き込みが出来るカレンダーが先月のまま下がっている。
押入れが北と西に一つずつ。南に文机。その脇にたて格子の民芸チェストが置かれており書籍や雑貨が見栄えよくならんでいた。
 ゆっくり文机の前に膝まづいたダージ・リンは柔らかな物腰で机に触れ、目を閉じた。
この机を通じて鈴木の気配を追う。
キメラたちは黙ったままその様子を見ていた。
彼らが書斎に入るのと同時に店先の玄関が開き、何者かが家へ入ってきた。
履きくたびれたスニーカーを脱ぎ母屋へと続く廊下を歩く。
リビングに着くと明かりを灯し、肩に掛けていた麻布で出来たショルダーバックを無造作に投げ出した。
 しばらくリビングと和室を行き来した後、縁側を通りキメラたちの居る書斎の扉を開く。
室内に明かりが放ち、キメラたちは一瞬目がくらんだ。

「誰だ!!君たちは?!」

張りのある若い男の声が部屋に響いた。

*つづく*
by mamikirakira | 2006-04-17 11:26 | 自作小説
disaster.2 つばさ はばたく 【5】
モミの木でできた扉の向こうは、地下へと続くコンクリートむき出しの無機質な通路と違い、全て無垢材で統一された造りになっていた。
 一歩踏み込むと樹を踏む独特の柔らかさを感じる。ミズナラ(どんぐりの木)材を使った床は暗褐色で、年輪がくっきり浮かび上がっている。時折歩くたびにきしむ音がした。
 入り口から右斜め角に、幾つかの小さなスポットライトで照らされた三日月形のウオールナット(くるみの木)材のカウンターが、光の加減により紫がかったこげ茶色に多彩な色の深みを見せている。
10席あるカウンターは3席ほど埋まっており、会社帰りのサラリーマン、OLが二人。それぞれオットマン式(足のせ台)のパースツール(カウンター用の高い椅子)にそれぞれくつろいで座っている。その椅子はステンレス製で座るところに綿で出来た紅いクッションが張られてある。無機質な感じだが不思議と違和感はなかった。
 キメラたちはゆっくりカウンターへ向かう。
入り口の横には真っ赤なカウチソファー。Luna 2s の c-classであり、洗練されたデザインだ。店内を斜めに区切るかのようにテーブル席が3っつ。カウンターと同じ素材で造られた角の丸い四角いテーブルに真珠のように白く硬質感があるメープル(かえでの木)材でできたアームチェアが二つ向かい合っている。この椅子は年月を重ねるとあめ色に変色し木目が美しく際立つものだ。
 薄暗い店内を囲う壁は、淡黄褐色のホワイトオーク材と黒と淡赤色の帯が交互に配列し縞目をつくるエボニー(カキノキ科)材のツートンカラーで構成され、各テーブル席の壁にあるステンレス製の鈍い灰色の光をおびた傘をつけたブラケットが、テーブル席の若い男女を優しく照らしている。
 黄色みを帯びた白色淡黄色の銀杏の木で出来た天井にダウンライト(埋め込み式)が幾つかあり、店内をほんのりと照らし足らない光は床や壁にフットライトが取り付けてあった。いずれも白熱灯で辺りを暖かで安らぎのある空間に演出していた。
 カウンター前に来ると中年の白髪まじりの痩せた男性が正装で迎えた。

「お待ちしておりました」

小さくまとめた鼻髭がもごもごと口の動きと一緒に動く。

「オレ、先に着替えてくるから。後、頼むよ」

 そう言ってダークネスはバーテンダーに軽く会釈して左奥のスタッフルームと黒い文字で書かれてある金のプレートが掲げてある扉を開き姿を消した。
キメラとクーは慣れた様子でカウンター席に腰を落ち着ける。

「シャトーリオン・・」

クーは臆した声色でバーテンダーの名を口にした。
男・・シャトーリオンはゆっくり頷き、慣れた手つきでカクテルを作り始める。
氷を入れたゴブレットにカンパリを注ぎ、冷やしたオレンジジュースで満たし、オレンジ・キュラソーを少量加えて味に奥行きを出し軽くステアし、カットしたオレンジを飾る。・・・カンパリ・オレンジをキメラの前に差し出した。
 鮮やかな真紅色の液体に水晶のような氷がライトを浴びて輝き、オレンジの黄色と美しいコントラストを描いている。
 一口飲むとほろ苦さと甘味が口の中で心地よく溶け合う。
ステンレス製のシェーカーにドライ・ジン、ホワイト・キュラソー、レモンジュースを注ぎリズミカルにシェークする。店内に流れるジャズの旋律と華麗に合わさって音楽を奏でているかのようだ。
 七三に分け、毛先だけ軽くカールした髪が激しい動きでわずかに乱れる。その姿に男の色気のようなものを感じる。
バーテンダーはカクテルグラスに手早く注ぎ、クーの前に置いた。
淡い乳白色の液体がシンプルに注がれている。出来上がったホワイト・レディをクーは一気に煽った。アルコール・酸味・甘味が見事に調和され傑作といわれる味に見事に仕上げられている。
 グラスを磨きながらシャトーリオンは苦笑いをした。

「詳細はコースターの裏に」

キメラとクーはコースターをめくり表に描かれている店名と別に、裏にはキメラたちの文字が綴られていた。
 それを見ていた会社員が自分のグラスを持ち上げコースターの裏を見るが何も書かれてなく、不思議そうに首をかしげ訝しげにバーテンダーを垣間見たが、また何事もなかったかのように飲み始めた。
彼の背後にはオーソドックスなボトルから銘酒と呼ばれるもの、オリジナルなボトルまでずらりと取り付け棚に並んでいる。グラスはカウンターの上の吊り棚にかけられていた。

 彼は中年男性の姿をしているが本来、お尻まである長い銀髪を携えた萌黄色の瞳の美しい女性である。180センチという長身に痩型で、切れ長の目と細い眉が印象的で珈琲色の肌をしていた。三階級の役職パースンチャージについており、主に日本での仕事の状況収集と日々の成果をまとめ、その資料を基に対策案を打ち立てる仕事についていた。
ちなみにキメラたちは5階級のジュリ。担当する地区の魂の審判を行い天使・悪魔・死神に魂を送る仕事である。4階級のジャジマスターはジュリの生活保護や仕事の指示、現場におけるトラブル回避など実質的なフォローを行っている。ミルクティがこれにあたる。
 バーテンダーを勤め管理に当たるパースンチャージは、人と接する機会が多いため仮の姿をとることが多い。
シャトーリオンも例外ではない。
コースターの裏側には逃げ出した男の事が簡潔に書かれてあった。

 鈴木 隆(55) 自営業者 千駄木で定食屋経営
妻   加奈子(52) 夫によって殺害
長男 泰助(29) 独身 自営業を手伝い
長女        母体の中で死産
鈴木 隆 妻の流産を信じることが出来ず、母体から胎児を出し。殺害。
その後、逃走しながら妊婦を3人てをかけ同じ手口で殺害。
目撃証言により駒沢公園に追い詰められ抵抗したため警察官によって射殺。
意識だけになってからも、死した母子の幽体を取り込みながら生きてる母子に危害を加える。
被害が拡大する恐れあり、総動員で早急に対処

クーは肩にかかった髪を払うと立ち上がり、シャトーリオンを強い眼差しで見つめた。

「今は人手がたりない。私たちが鈴木さんを追えばいいのね」

グラスを棚に戻し、カクテルを作りながら彼は言った。

「そうです。現場が片付き次第ミルクティたちもあなた達の後を追うでしょう。まだ、彼には数人の魂が味方している。人だけではない。動物の物もあります。・・・・・あなた達だけでは荷が重いでしょう。助っ人を呼んであります。スタッフルームへ」

 厳しい口調ながら静かにチェリー材で出来た左奥の扉に目配せした。濃い赤褐色の木肌が綿密で高級感のある扉で、ダークネスが姿を消した扉だ。
クーにつづきキメラもその扉へ向かい、金のドアノブを回した。冷たい空気が吹き抜け打ちっぱなしのコンクリートが目に飛び込む。その先には短い廊下があり突き当たりに新たな扉があった。スタッフルームの扉と同じものだ。
 硬いコンクリートを踏み少々重い足取りで廊下を進み第二の扉を開いた。
薄暗い廊下に眩しい光が溢れ出す。
木々のざわめき、暖かな優しい風が頬をなで、懐かしい果物の香りが鼻をくすぐる。
扉の先には無限に広がる青い空とあの島と変わらない自然が息吹いていた。

*つづく*
by mamikirakira | 2006-04-17 11:20 | 自作小説
disaster.2 つばさ はばたく【4】
 駒沢公園を飛び立ったキメラ、クー、ダークネス。
自分達の拠点件住まいとなっている「rest」へ向かっていた。
傾き沈みかけた太陽は空に茜色の残り火を湛え、月に輝きを与え星に空を明け渡す。
都会の空は緩やかな時の流れを知らぬかのように、煌めくネオンと絢爛な灯かりを受けぼんやりと明るく照らされていた。
 三軒茶屋上空にさしかかり、キメラは眼下の光景を垣間見た。
市街地再開発事業が進み、(第一工区)アムス西武、(第五工区)サンタワーズ、そして近年出来上がった(第二工区)キャロットタワーと世田谷線三軒茶屋駅や三茶パティオ等、さまざまな総合施設が完成している。
今後も今マクドナルドやブンカ名店街、すずらん通りがある一角(第三工区)、それとエコー仲見世商店街からハナマサにかけての一角(第四工区)も開発されていく予定だ。
都内の高層ビルの建ち並ぶほんの一角に過ぎないこの場所も大きく変わろうとしている。しかし、上空から眺めればあまり代わり映えしないのかもしれない。
 都市化が進み不規則に乱立する高層ビル群と駅周辺で開発が進む商業ビルやオフィスビル。近年では高層マンションもみうけられる。
地域にとっては大きな変化でも東京都下からすればどこにでもある変化であるから。
 しばらくすると右手に敷居の高いファッションビルとカフェが建ち並ぶ代官山。左手には言わずと知れたセンター街や名店が多い道玄坂のある渋谷。そして、個性的な店の多い表参道にさしかかって、キメラたちはゆっくり高度を落としていく。
 風の抵抗を受け激しくはためいていた服や髪がゆっくり落ち着きを取り戻しはじめ、キメラは軽く深呼吸した。わき目を振るとクーはカールした髪を軽くかきあげ、ダークネスは濡れた足元を時折不快そうに振っている。
既に高度は住宅地の一番高い建物の屋上すれすれくらいまで降下しており、時にはビルの谷間を通り抜けることもあった。
青山霊園を越える頃に六本木ヒルズが目前に広がる。
 周辺で一番高層な円柱形でガラス張りの森ビル。その左手前に六本木ヒルズレジテンスビルが二棟そびえ、そのはす向かいにテレビ朝日の建物がある。
それらを左手に首都高三号線をまたぎ、外苑通りに沿いながら3メートル近い白い塀に囲まれたロシア大使館の前に降り立った。
 桜田通りを挟んですぐ東京タワーだ。
キメラ達は桜田通りに出て正面に石造の真新しいファザードをあしらえた聖アンデレ教会礼拝堂方面へ向かい、いくつか道を進んでいくと、赤煉瓦とガラスを交互に組み合わせ市松模様を模した壁面にわずかにカーブを描いた半円柱形の5階建てのビルの前で足を止めた。
 壁面に合わせた赤レンガで出来たホールに入ると、左手に植物の蔓を鉄のモニュメントであしらったオフィス看板が施されていた。1階から5階まで映画館になており、地下1階には「子猫」と書かれたアジアン雑貨も扱っている喫茶店。地下2階には「BAR rest」・・・キメラたちの拠点があった。
 踊り場に正面にはステンレスで出来た無機質なエスカレータひとつ。その右脇に地下へと続く階段がある。彼らは迷うことなく階段を降りると左手にアジア調の小物が飾られてある楡の木でできた格子窓のついた扉があり、その傍にはイーゼルが、掲げられてスケッチブックには愛らしく「子猫」という店名とメニューが描かれていた。
正面には新たな扉が・・・。スチール製の黒い扉に銀のパネルで「BAR rest」とかかれてあった。一瞬入るのを躊躇させられるような威圧感を感じる。
来る者を拒むかのような雰囲気をかもし出す扉のステンレスでできたぼやけた銀色の光を放つ取っ手を掴み扉を開き、さらなる階段を降りてゆく。
扉を開けても果てしなく扉が続くような錯覚に陥る。
 埋め込み式の柔らかなライトの灯かりがよりいっそう不安を煽った。
階下に降りると正面にほのかに年輪を湛えた真っ白な樅(モミ)の木で出来た柔らかで重厚な扉が迎えた。
そこには看板や表札はない。
天井からステンレスで出来た傘に覆われた電球が二つ。ほんのりと扉を照らしているだけであった。
その扉が音もなく開き一組の中年の男女が出て行く。
身に着けているものから上流の暮らしが伺える。扉を開けてすれ違いざま、軽く三人は二人に会釈をして店内に入った。

*つづく*

by mamikirakira | 2006-04-17 11:13 | 自作小説
disaster.2 つばさ はばたく【3】
ざわめく木々とさざめく草花、異様な湿った空気と漆黒のまとわり憑くような霧を、囲むように東京管轄のジュリ(役職名)達が人の魂に触れ審判を行っていた。
 彼らの頭上に下された審判の対象者を連れ去るため、魂に安らぎと転生を司る翼ある者が幾人も翼をおおきく広げ羽ばたき、木々の陰、人の影、暗闇のあるところから苦役と後悔をもたらす者たちが這出る姿もあった。
ジュリの傍らには大きな鎌で魂を捕らえた者が、手を震わせ額に汗を浮かべている。逃げ惑う魂を留めておくのはかなりの体力と精神的苦痛がともなうと聞いていたが、まさにその状態だった。
 しかし、おかしな事はこれだけではなかった。
底なし穴のような霧を中心に乳児と女性の魂ばかりが何体も浮遊しており、それらの遺体は一つも辺りに見当たらない。
漆黒の霧の中から間を置いてそれらの魂がはじき出されているのだ。

「これはいったい・・なに?!」

 キメラの体は無意識のうち震え、握りこぶしを作った手は自然と胸へとあてる。
知らぬ間に後ずさりしていたらしく後ろに立っていたクーにぶつかった。
クーはキメラの背を押すと苛立たしげに前を見据えた。

「もうすぐ出てくるわ・・」

 彼女の言葉の通り間もなく漆黒の霧は怪しげな揺らぎと共に辺りに散り、その中心にいた者をあらわにした。

「ぐはぁ・・・。かはっ!!ゴホッゴホッ」

 苦しげなうめき声を上げ、半ば倒れかけている20代前半の男性は波打つ緑の髪が腰まである30代前半と思われる男性に支えられながらようやく立っている様子だった。
彼らはの足元には公園の池があり、膝下から水に浸かっている。澱んで空き缶やコンビニのビニールが浮かぶ汚い水辺の不快さに比べて辺りに散り出た漆黒の霧からは憎悪にも似た嫌な感覚が吐き気を呼ぶほど強かった。
 水面を乱し軽い水しぶきを上げながら彼らは重い足取りで池から出る。
30代半ばのキメラと同じように民族衣装を纏った男は、キメラたちに気付くとまだ息荒く苦しげな男を支えたまま彼女達に歩み寄った。
艶のある長い髪が重たげに一束彼の肩から胸へ流れ落ちる。優しそうな面持ちにどこか男らしい力強さを思わせる表情。彼の澄んだ群青色の瞳がキメラたちを捕らえた。

「急を要して申し訳ありません。この通り東京管轄の方には全員に手伝ってもらっています。これから、関東支部から応援も来ます」

穏やかな口調の中に凛とした強さを伺わせる。クーは一歩歩み出ると彼らに手を差し伸べた。

「ミルク・ティ様。私達も微力ながら手伝います!」

「いえ、ここは彼らに任せてあなた達には他の事をおねがいしましょう」

少し微笑みを湛えながら、ミルク・ティは懐でうなだれる男性に視線を移した。男はミルク・ティから体を離しゆっくり顔を上げる。
こげ茶色のベリーショートな前髪を少し長く残して立てた髪に、その髪と同じ色の瞳。幼さの残る面持ちにきりりとした太めの眉が印象的だった。

「すまねぇ・・。獲物捕りにがしちまった。予想以上の数の魂を取り込んでいて、そいつでオレを動けなくしてたんだ。ヤツの想いがむちゃくちゃ強くて、引きずられた魂がヤツの思いとおりに動いてったってわけ。」

「ばっかじゃない!あんたのせいでジャッジマスター(役職名)のミルク・ティ様や東京のジュリ(役職名)が全員借り出されてるのよ!」

彼の言葉に食ってかかったのはクーだった。ミルク・ティは二人の間に割って入り苦笑いをする。

「まぁまぁ。仕方がないです。こうなった以上は。私達は彼に引きずられた魂を審判しますので、あなた達はダークネスと共に彼を探し捕らえるのです。」

民族衣装で高貴ないでたちのミルク・ティーに対して、ダークネスは鳶色のコーディロイダブルジャケットに二藍色のスリムラインチノパンにブランド物のスニーカーとクーと同じでラフな格好をしている。
 辺りで仕事をしている人たちも民族衣装だったり、民間服だったりそれぞれだ。

「『レスト』に一段戻ってください。あなた達を応援してくれる方が待っています。そして、バーテンダーに彼の行き先についての情報を得てください」

「分かりました」

 三人は緊張した口調で言葉を返し深く頭を下げる。
キメラもクーもダークネスも言わずとも分かっていた。
時間がない・・。彼を捕まえるのに時間がかかればかかるほど、他の魂が彼の思いに引きずられ、生き物に想像を越える恐ろしい悪影響を及ぼす事を簡単に想像できた。
 彼女達は公園の木立を抜けミルク・ティたちを後にしビルが建ち並ぶ街へと飛び立った。

*つづく*

by mamikirakira | 2006-04-17 11:09 | 自作小説
disaster.2 つばさ はばたく【2】
30分ほど待っただろうか。背後から甲高い声に呼ばれた。

「ちょっと~!こんなところに何ぼ~っと突っ立てんのよ。いくら待ってもダークネスはこないわよ。ちょっとはおかしいと思ってケータイくらい入れなよ!」

 声の主は人ごみを強引に掻き分けてキメラに走り寄った。
すれ違うたび男達が振り返る。
潤んだ深緑の大きな瞳。桜色のぽわぽわにカールした髪は肩の上で綿菓子のように揺れ、青白くとも思われる肌の頬をわずかに赤く染めたその姿はとても魅力的だった。キメラの前に立った彼女は首を上げ鼻息荒くまくしたてる。

「ちょっと聞いてるの?わざわざ走ってきたんだからね!ケータイ!わかる?ケータイ」

 彼女の身長は150センチ。キメラを見上げた瞳がますます大きく見開く。
慌ててキメラは懐から携帯電話を取り出した。

「こ、これね。使い方あまりわからなくて・・・。使うのなんだか怖い気が・・」

 黒いデニムのミニスカートに緑のブリーツチェニックキャミソールそのうえからピンクのふわふわボレロ・・最新のファッションを纏った彼女に対して、いつもの民族衣装のキメラの姿はこの街で異様に浮いて見えることだろう。

「ケータイが人食べたって話聞いたことないよ!馬鹿!せっかくイイ男昇天しようってな時にトラブルばっかだよ。せっかくのオシャレが台無し」

 ボアつきのくしゅくしゅブーツのかかとを鳴らし、小さな唇を尖らせた。
おもむろにキメラの手首を掴むと

「てか。んな話してる場合じゃないって飛ぶよ!!」

「クー!!」

 既に二人は舞い上がっていた。眼下の風景がみるみる遠のいていく。
ハタから見たら忽然と二人の女性が消えたかのように見えただろう。
仕事をしていたり飛んでいる時は人には姿が見えなく、普段見えたとしても彼女達の姿は人間の感覚によってさまざまな姿に見えるらしい。
ビルの谷間を縫うように飛ぶ二人。眼下には絶え間な瞬くネオンと車。そして人。
時刻はもう日暮れに指しかかっておりビルの窓に紅い太陽が時折写る。窓越しに人々がせわしく働き、灯かりが少しずつ燈りより明確に人の姿を見ることが出来た。

「いったい何があったの?どこへ向かってるの?」

不安げな面持ちでクーを見つめるキメラ。風でなびいた髪が彼女の頬を時折叩く。クーの首にかけてあった桃色のハートをモチーフにした可愛らしいペンダントが、日の光を浴びて時々輝き風まかせに右へ左へときに上や下へ暴れている。

「駒沢公園よ!皆自分の仕事を中断して応援に行ってるの!」

かなりの速さで飛んでいるため耳元で風呻き声が騒がしい。クーは大きな声で言ったがあっという間にその声はかき消された。

「何の応援?!」

クーは横目でキメラを見ると眉間にしわを寄せた。

「とにかく、行ってみればわかるって!」

 やがて眼下に東京医療センターの10階建ての白い建物が見えてきた。A棟B棟外来病棟を越え駒沢通りをはさんですぐだ。
東京オリンピックの行われた陸上競技場の煉瓦色のトラックを眺め、中央広場の管制塔を横切り右手にある補助競技場、第二球戯場を越えて軟式野球場の手前にある小さな池のある公園で二人は降りた。
 警察や野次馬でごったがえしており、辺りを警察車両の赤色塔が照らしていた。

「そういえば・・何か事件があったって・・」

胸騒ぎを覚えるキメラ。クーは柔らかな芝生を踏みしめ歩みを進めながら神妙な面持ちで頷いた。

「そうよ」

 彼女達の向かう先に・・異様な漆黒のもやと鋭い閃光が木々の間から漏れている。
沢山の人々は彼女達に気付く様子もなく騒いでいた。
人間の引いた黄色いロープをくぐりキメラたちは信じられない光景を目にした。

*つづく*
by mamikirakira | 2006-04-17 11:05 | 自作小説