駒沢公園を飛び立ったキメラ、クー、ダークネス。
自分達の拠点件住まいとなっている「rest」へ向かっていた。
傾き沈みかけた太陽は空に茜色の残り火を湛え、月に輝きを与え星に空を明け渡す。
都会の空は緩やかな時の流れを知らぬかのように、煌めくネオンと絢爛な灯かりを受けぼんやりと明るく照らされていた。
三軒茶屋上空にさしかかり、キメラは眼下の光景を垣間見た。
市街地再開発事業が進み、(第一工区)アムス西武、(第五工区)サンタワーズ、そして近年出来上がった(第二工区)キャロットタワーと世田谷線三軒茶屋駅や三茶パティオ等、さまざまな総合施設が完成している。
今後も今マクドナルドやブンカ名店街、すずらん通りがある一角(第三工区)、それとエコー仲見世商店街からハナマサにかけての一角(第四工区)も開発されていく予定だ。
都内の高層ビルの建ち並ぶほんの一角に過ぎないこの場所も大きく変わろうとしている。しかし、上空から眺めればあまり代わり映えしないのかもしれない。
都市化が進み不規則に乱立する高層ビル群と駅周辺で開発が進む商業ビルやオフィスビル。近年では高層マンションもみうけられる。
地域にとっては大きな変化でも東京都下からすればどこにでもある変化であるから。
しばらくすると右手に敷居の高いファッションビルとカフェが建ち並ぶ代官山。左手には言わずと知れたセンター街や名店が多い道玄坂のある渋谷。そして、個性的な店の多い表参道にさしかかって、キメラたちはゆっくり高度を落としていく。
風の抵抗を受け激しくはためいていた服や髪がゆっくり落ち着きを取り戻しはじめ、キメラは軽く深呼吸した。わき目を振るとクーはカールした髪を軽くかきあげ、ダークネスは濡れた足元を時折不快そうに振っている。
既に高度は住宅地の一番高い建物の屋上すれすれくらいまで降下しており、時にはビルの谷間を通り抜けることもあった。
青山霊園を越える頃に六本木ヒルズが目前に広がる。
周辺で一番高層な円柱形でガラス張りの森ビル。その左手前に六本木ヒルズレジテンスビルが二棟そびえ、そのはす向かいにテレビ朝日の建物がある。
それらを左手に首都高三号線をまたぎ、外苑通りに沿いながら3メートル近い白い塀に囲まれたロシア大使館の前に降り立った。
桜田通りを挟んですぐ東京タワーだ。
キメラ達は桜田通りに出て正面に石造の真新しいファザードをあしらえた聖アンデレ教会礼拝堂方面へ向かい、いくつか道を進んでいくと、赤煉瓦とガラスを交互に組み合わせ市松模様を模した壁面にわずかにカーブを描いた半円柱形の5階建てのビルの前で足を止めた。
壁面に合わせた赤レンガで出来たホールに入ると、左手に植物の蔓を鉄のモニュメントであしらったオフィス看板が施されていた。1階から5階まで映画館になており、地下1階には「子猫」と書かれたアジアン雑貨も扱っている喫茶店。地下2階には「BAR rest」・・・キメラたちの拠点があった。
踊り場に正面にはステンレスで出来た無機質なエスカレータひとつ。その右脇に地下へと続く階段がある。彼らは迷うことなく階段を降りると左手にアジア調の小物が飾られてある楡の木でできた格子窓のついた扉があり、その傍にはイーゼルが、掲げられてスケッチブックには愛らしく「子猫」という店名とメニューが描かれていた。
正面には新たな扉が・・・。スチール製の黒い扉に銀のパネルで「BAR rest」とかかれてあった。一瞬入るのを躊躇させられるような威圧感を感じる。
来る者を拒むかのような雰囲気をかもし出す扉のステンレスでできたぼやけた銀色の光を放つ取っ手を掴み扉を開き、さらなる階段を降りてゆく。
扉を開けても果てしなく扉が続くような錯覚に陥る。
埋め込み式の柔らかなライトの灯かりがよりいっそう不安を煽った。
階下に降りると正面にほのかに年輪を湛えた真っ白な樅(モミ)の木で出来た柔らかで重厚な扉が迎えた。
そこには看板や表札はない。
天井からステンレスで出来た傘に覆われた電球が二つ。ほんのりと扉を照らしているだけであった。
その扉が音もなく開き一組の中年の男女が出て行く。
身に着けているものから上流の暮らしが伺える。扉を開けてすれ違いざま、軽く三人は二人に会釈をして店内に入った。
*つづく*